江戸料理を提供される数少ない方で、東京目白の「太古八」で修行し、24 歳で板長をつとめ、28歳で独立されています。2016年に、農林水産省の「料理マスターズ」に、秋田県で初めて選ばれまています。高村さんのことについて、その信条を含めてわかりやすい記事が、本田 直之さんの記事として掲載されています(この記事がすべて正しいとは言えないようですが参考資料になる)。秋田で江戸料理という「日本料理たかむら」に至った経緯を含めて参考になります。
江戸料理という概念はなかなか幅広いですが、その神髄が何なのかについての考察は幾重かあるようです。シンプルが信条という考え方。鰹節でだしを引き濃口醤油で味付ける。
江戸料理といえば、以下のものがあげられる。
- 江戸蕎麦
- 天ぷら
- 江戸前寿司
- 海苔巻き
- 刺身
- 鰻蒲焼
- 穴子料理
- どぜう
- すき焼き
- 田楽
- 味噌田楽
- おでん
- 桜鍋
- 葱鮪鍋
江戸料理百選では以下の料理がその一部として掲載されています。
- はんぺん豆腐
- 豆腐の木の芽田楽
- 玲瓏豆腐(こおりとうふ)
- 雪消飯(ゆきげめし)
- 鯛飯
- 渦巻き豆腐
- 霙蕎麦 (みぞれそば)
- 酢烹(すしに)
- 林巻大風呂吹大根(りんまきおおふろふきだいこん)
江戸の料理は寿司、鰻、天ぷら、蕎麦などのファーストフードとして庶務の間で発達する一方で、武士の世界でもこれらは発達していきます。蕎麦では、武家向けに更科という文化が芽生えます。一方、庶民の間では二八そばが流行ります。つなぎに小麦粉が入るので、切れない・多少の保存ができる(長持する)、加えて、喉越しが良いと訴えられるという作る側の営業戦略から生まれたと思われ蕎麦が発達します。寿司では、江戸城内に寿司が存在する一方で、江戸市中では屋台での寿司が主流となります。同じ料理が少しづつ形を変えながら、それぞれの文化の中で発達するのが面白いところです。
高村さんも大変お忙しいようです。先日連絡した際に、定休日以外に火曜日と水曜日もお休みの日があるということでした。理由は、JR東日本の仕事によるということです。JR東日本では、「TRAIN SUITE 四季島」の寝台列車の旅を提案し、その中で東北、北海道の著名なシェフによる料理を提供しています。列車による長旅に美味しい食事を提供する旅の企画です。高村さんも、監修中村 勝宏、総料理長岩崎 均のもとに集結したシェフのお一人であり、春の時期は火曜・水曜と四季島に出向かれているので忙しいそうです。「秋田駅前のホテルの厨房で料理して、最高の駅弁を作っている。」そうです。元々贅沢な旅ですが、その締めくくりの料理が日本料理たかむらの特性弁当であれば、その金額も納得でしょうね。
店に着いた時には、まだ何方も居られず、またもや一番乗りです。ご挨拶して、色々とお話しさせていただきました。たかむらの料理について、先週末に仙台で開催された、「たかむらとKUROMORI」の初のコラボのこと、器のことなどなど・・。
先週末の仙台KUROMORIで開催されたお二人のコラボは発売2分で完売し、開催前日のキャンセル待ちが100名を越えているということで、食通の方には、垂涎のプラチナチケットだそうです。来客には、著名な方も含めて大勢の方であったそうです。
「もう二度とやらない。」「コラボは今回が初めてで、最後かな。」と言われていましたが、その後に、「少し落ち着かれて、今回のイベントが、どんな相乗効果をもたらしたかを検討され、それも面白いということになれば、次回もあるかも。」「でも、今は疲れた。」とお話されていました。また、「黒森さんには相当影響を与えられたかな。」というお話もあり、「彼は、日本料理の神髄を見たと思うので、これからの成長が急速度で変わるかも?」等々、その面白さを既に、ご自身の中で噛みしめている様子なので、再結成や、他の方とのコラボもあるかもしれません???
そんな話をしていると、いよいよ高村さんの料理が始まります。
お酒はダメですので、今日も炭酸水でスタートです。
【先付】
- 秋田産真蛸
- 子持ち昆布
- もろきゅう
- ホタルイカ
- あさりと春菊の胡麻寄せ
- 卵焼
真蛸は、丁寧な仕事の賜物でした。美味しく仕上がっています。丁度良い硬さで、かつ、塩味です。丁度良いだけ丁寧に揉みほぐした蛸です。素材への真摯な取り組みがわかる一品です。高村さん曰く、「蛸はそのまま揉みます。すると繊維が切れて柔らかくなるのと同時に、塩が出てきます。このバランスを取るのがなかなか難しい。」ひたすら蛸を揉む作業は、持久力を求められる作業ですから大変です。
玉子焼きは大好きな品なのですが、間違いなく美味しい玉子焼きですした。もっと、大きいと、もっと、うれしいですね。
秋田産鮟肝(別盛)
絶品の鮟肝です。これまでの鮟肝とは別次元の一品です。まろやかで、肝の持つ脂質やたんぱく質の癖はありません、全く無いのです。口の中では、ホォーと溶けます。今までの鮟肝は何だったのだろうと思わせる別格の鮟肝です。
頂いた後に、しばらく、この味の素は何なのだろうと考えてしまいました。これをいただけただけで、伺った甲斐が有ったと言えそうです。もちろん、鮟鱇の肝とお酒とがなす技であることは間違いありません。
「凄い鮟肝ですが、下処理から違うのでしょうね?」と高村さんに伺ねてみました。すると、「これが、本来の鮟肝です。」「下処理から全く違います。」「血抜きの手法から、他ではやっていない処理をして、臭みは一切除去します。」とのこと。その後、「実際にこんな処理をして、あんな処理をして。」と丁寧に教えていただきました。どれだけ手間をかけているのだろうと感心します。このお話だけでも、上級と言われるお店の領域を、はるかに越えているのではないかと感じました。ここでは、その処理方法や作り方の詳細は企業秘密も含むのかもしれないので割愛します。是非、伺った際に尋ねてみて下さい。
【蕨擂りのご飯】
ワラビは下処理が大変な食材です。
ワラビを丁寧に擂って、それをご飯にかけて、いただきます。私が、ワラビの味として記憶してきたものとは異なります。ワラビ独特のエグミを伴う香りがありません。多分、他の方も同じ感覚になるのではないかなと思います。これも鮟肝同様に下処理が違うのだと思われます。
【椀物】
使用されている緑色のお椀は 400年物の輪島塗です。 京都料亭の物を競り落としたそうです。今後、こんな代物を探すのは大変かもしれないというお椀です。
鼈と比内地鶏をワンタンに詰めてウルイを加え、秋トリフを乗せた上を大根で覆い、鼈のスープ、比内地鶏スープと鰹だしでの3種のだし(スープ2種と鰹だし)で炊いたものです。うま味が凄いです。
椀を開けると、だしを中心に具材のほのかは香りがします。だしを少しいただき、大根をよけるとトリフの香りが。そして、ワンタンの中からは鼈と比内地鶏の両方が一緒になって主張します。そして、だしがこれらをまとめてくれます。バランスが抜群です。
椀のたねが活きる吸い物です。この吸い物は、京都料理のお吸い物のコンセプトとは全く違うという高村さんの言われる通りの内容です。
高村さん曰く、「江戸料理は素材を主張させる料理です。京料理はだしが前面に出てきて主張する。その後ろに具材が現われます。たかむらの料理は、具材を主張させます。その為にだしを上手に用いてバランスを取ります。」
全くその通りの内容でありました。
ここで、江戸料理を、敢えて「たかむら料理」と記載したのは、本当の江戸料理を継承しているのは、このたかむら以外に無いのではと考えるからです。
この思考とフィロソフィは、江戸料理そのものであり、日本で(イコール世界で)江戸料理を唯一提供できる店であるたかむら料理の神髄なのかもしれません。
【刺身】
- 秋田沖のアイナメ
- マス
- 閖上の赤貝
- 閖上赤貝のヒモと肝(別盛)
全て洗練された刺身ですが、赤貝の生の肝は滅多にいただけません。この時期だから頂ける赤貝の肝を賞味できて、ありがとうございました。
【焼き物】
比内地鶏の首の皮にミンチを詰め焼き ホウズキと苔桃を添えて
比内地鶏の1羽から2人前しか作れない品だそうです。
首の皮の弾力をすべて消さない程度の焼き具合で、皮の弾力を消してパリッと感を出した中に、ジューシーな比内地鶏がたっぷり詰められています。このジューシーな鶏のスープを含むミンチ肉と首の皮がバランスよく口の中に広がります。これも、初めていただいた品で、感激ものです。
【煮物】
鶉の利休盛りに鰹だし餡かけ
鰹だしのあんかけが凄いです。鰹の雄節の一番だしによる餡です。このだしがたかむら料理の土台になっているものだと思います。非常に良いだしです。出しゃばらずに煮物の素材を引き立てるのですが、このだしがあって素材がより美味しく感じられるのだと思います。
だしの勉強も始めた私にとって、大変興味深いだしのうま味でした。
高村さんによると、「たかむらでは鰹だしが根底にありますが、昆布も使うし、その他のだし(スープも含む)も使います。」「何か、間違って伝わってる時もあるようで、たかむらは昆布を使わないというように訊ねられる事が有ります。」というお話もありました。それはそうです、昆布を使わないということは無いだろうなと思っていたので。
「多分、京料理と江戸料理の違いの話をしたときに、鰹だししか使わないというような誤解を生んだのかもしれませんね?」とのことでした。
うま味という視点で考えると、鰹、昆布、キノコ類、その他の魚、野菜、肉の成分は異なりますし、それぞれが持つアミノ酸と核酸の組み合わせがうま味を形成します。うま味だけではなく、こくにも関与しますし、香りによる影響も多大です。これらをいかに組み合わせたかという帰結が、「うまい」に大きな影響を与えるので、鰹だけということはあり得ませんね。
【八寸】
- クラゲとキュウリの和え物にアメーラトマトと黒皮南瓜
- 虎河豚白子焼き
- 蕪餅をカラスミで
蕪餅は優しい一品です。道端に 落ちていた美味しさという感じです。気にしないと行き過ぎてしまいそうに、そっと他の2品の端に出されていたのですが、ふと、立ち止まらせる美味しさがありました。中国料理の点心の一種に大根餅がありますが、これも美味しい点心です。蕪餅は大根餅とは異なります。甘みと香りが優しいものです。山形の腰掛庵の葛餅のような、そんな優しさがあります。これに、自家製のカラスミを擦ってかけています。一口サイズなのですが、勿体なくて、二つに箸で切っていただきました。
高村さん曰く、「なぜ、これが生まれたかというと、普段、料理人は蕪を炊けるようになるとそこがゴールになってしまいます。」「でも、一寸待てよ、この蕪の形のままいただく必要があるのか?と思い、潰してみました。」「すると、これがなかなか良い味で、これをまとめて何かを加えてと、開発に至った。」ということでした。
この話と、たかむら麺の開発は繋がるお話でした。「何かもっと善くならないか?」「こんなものが欲しい。」という要求などが動機となり、非常にクリエーティブに開発に携わって来られたのがよく分かるお話でした。
動機(モチベーション)というのは、人が生きていくうえで非常に重要な要素です。動機分析という学問領域があります。私自身は、本来、動機を操作する方法論が専門です。私自身の動機分析結果は、「変革」というキーワードですので、今より善くという思考が、生きていく上で最も重要な要素です。よって、これまでの60年の人生で私が最も楽しい時は、変革プロジェクトや人のパフォーマンスを変えるための施策や方法論の検討に携わっていることでした。この動機というのは、各人が持つものですが、それぞれ異なる動機を持ちます。高村さんは、動機としてホスピタリティに変容を合わせ持つ方なのかもしれないなと感じました。話しが、飛んで・・・飛んで・・・でした。
【揚げ物】
甘鯛松笠揚げ 山葵塩で
オーソドックスな料理ですが、本当に美味しいです。出された瞬間は、「えっ!! 揚物は、甘鯛松笠揚げですか?もう少し、他のものを期待していたのに?!」と、正直に思いました。その表情を見られていたら、そんな顔をしていたであろうなと反省しています。しかし、たかむら料理の甘鯛松笠揚げは、ただ揚げているだけではない一品です。松笠揚げの特徴は、うろこのカリカリ感と身の柔らかさのコントラストを一緒に味わいます。たかむら料理の甘鯛松笠揚げは、これに何らかのうま味が加わっていて、より美味しい料理になっています。何らかが何かは分かりません。下処理時に何かしているか、下味を加えているかのどちらかではないかと思いますが、分かりませんでした。機会があれば、もう一度いただいてみたいです。
【食事】
たかむら麺の担担麺
是非、一度お試しあれです。
そばの研究にだしや旨味の研究を始めた私にとって、興味深いたかむら麺です。秋田県内では市販されているそうですが、店で品切れの時もあるそうなので、分けていただきました。自身で、試してみようと思います。
【甘味】
玲瓏豆腐(こおりどうふ)
黒蜜は太古八からのものだそうです。懐かしい玲瓏豆腐です。
たかむら料理は、打ち水された入り口から、店を出るまで大変高度なホスビタリティー、技、業とそれらの土台になる、たかむらフィロソフィーによるものなんだと思わせるものでした。
月に一度、ここに通える事が出来ると、どんなに良いのだろうと思いました。それは難しいですが、機会を見つけてまた伺いたいと思います。
メモ
価格:13,420円
熱量:約1,200kcal
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