2018年3月29日木曜日

食べ歩き(132) アル・ケッチァーノ イタリアン 鶴岡市

通い詰めているお店のアル・ケッチァーノは、9回目の訪問だと思います。
だいぶ以前に予約を入れていたのですが、1か月ほど前にお店から電話をいただき、この日を含めて、合計3日間で、アル・ケッチァーノ18周年記念の会を開くので、このまま参加くださいというお話をいただきました。ただ、普段お願いしていたスペシャルメニューではなく、18周年記念会特別メニューを用意するのでそれでも良いか、また、奥田シェフも参加して新しいメニューを紹介したいという連絡でした。

これは、面白そうなので、是非参加したということで、本日伺うことになりました。また、この日を前後に東北の他の名店の日本料理たかむらと秋田てんぷらみかわ、東京でたまたま予約が取れた中華のFURUTAへも伺うというツアーを組んだ発端でもあります。

さて、18周年記念メニューと新作がどんな内容になるのか大変楽しみです。お土産兼お祝いに何を用意しようかと思いめぐらせました。何をお持ちしても多分ご存知ですし、それよりも良いものを経験されていると思われます。
そこで、札幌、あるいは、北海道で珍しいものを探してみました。すると、今年2月に初めて出荷された厚岸蒸留所のウィースキーで「厚岸 NEW BORN FOUNDATIONS 1」、上川で新たに2016年から準備が始まり立ち上がった上川大雪醸造所による日本酒がターゲットになりました。しかし、どちらも手に入る状況にありません。ウィスキーの方はプレミア品になっていますし、上川のお酒は手に入れることができますが、たまたまタイミングが悪く、次回の出荷待ちです。ということで、新しいものは難しいということで、お酒繋がりで北海道だけでなく日本中で注目され北海道サミットの食卓に提供されたワインにしました。

夕方アルケッチャーノに到着です。前回の訪問が冬でしたので真っ暗で雪が積もっていましたが、桜の開花が近いこの時期は、まだ明るくて歩きやすいという全く別の世界です。この冬の庄内地区の雪は、例年より多かったそうです。でも、すっかり雪は見えません。ここ数日の暖かさで溶けたそうです。

18周年記念特別メニューの会に到着すると、店の前で4名ほどの方が待たれています。6時からとのことで、まだ、中では最終準備をされているそうです。今日は何名の方が来られるのでしょうか?しばらくするとドアが開き順番に店の中へ通されました。私は、持参のお祝いをお渡しし席に案内されました。一番好きな一番奥の厨房方面を向いた席でした。この席が一番落ち着きます。

メニューがテーブルの上に置いてあります。内容は以下の写真のようです。デザートまで入れて12品目あります。普段の特別メニューよりは少ないですが十分な量です。料金も特別で10,000のコース設定をしているそうです。それでこのボリュームですので、庄内で開催とはいえコスパが高いです。

今日も炭酸水にて料理開始です。

1)アルケのオリジナルキャビアと芽キャベツとサワークリーム
キャビアはアルケッチャーノが宮崎で養殖を開始したものだそうです。養殖まではじめてしまったのでしょうか?? 芽キャベツの香りにキャビアの塩味が加わりサワークリームのオイルでいただきます。魚と野菜と油の組み合わせで、全てのうま味の元素を混ぜています。全てが少しだけ影響するので、大変優しい組み合わせになっています。自然と食材を活かすアル・ケッチァーノらしい一品でした。

2)ねっとり火をとうしたサーモンとアボカドとキュウリ
サーモンの身の部分は43度の低温調理で火を入れています。一方で、サーモンの骨は135度で一気に調理しています。これに、アボガドのアミノ酸とオイルを加えています。また、食感にキュウリがいます。最初はサーモン、骨、アボガドと別々にいただきました。それぞれが主張します。次に、サーモンとアボカドを一緒にいただくと、お互いの強い味と香りを相互に消しあって美味しくなります。なかなか面白い組み合わせです。

3)フォアグラの軽いムースとパリパリ庄内麩
フォアグラをムースにすることで、強烈なフォアグラの香りと味とオイルの力を最小限に閉じ込めています。フォアグラが苦手な方にも楽しめる一品です。コテコテのフォアグラ好きには物足りないかもしれません。
このフォアグラムースをフォカッチャにつけいただくと、これが美味しいです。

4)アワビとイタリアパセリのリゾット
鮑を小さく四角にカットすることで食感を楽しめるようにしたそうです。確かに鮑を感じながら食べやすいです。このリゾットに添えられている春菊の鮑肝合えを加えるとコクが増します。春菊の鮑肝合えをソースにするということなのだと思います。

5)オマールエビとくだいたオーガニックコーヒー豆
オマールエビへの火の入れ方は普通の入れ方でした。これに振りかけられたコーヒーの欠片ですが、海老を食べている時にはあまり感じませんが、食べ終わった後にほんのわずかの香りが口内に残ります。残り香のように。

6)自然薯とメレンゲをかぶせたユズのコンソメスープ
器に被せてある自然薯とメレンゲをコンソメに加えるとこくがまします。

7)小玉貝とドライトマトとハーブとオリーブのフェデリーニ
ドライトマトは煮出してグルタミン酸を引き出して昆布の代わりに使ったということです。トマトにはうま味アミノ酸が豊富なので正しい使い方ですよね。小玉貝とオリーブのブツギリがフェデリーニに絡みます。

8)穴子とナスの焼きなす仕立
ナスのピューレを下に敷いた上に穴子&ヒラメムースをのせて焼いています。添えられているソースは、焼きナスとバルサミコ酢を練ったものです。このソースというより塊がなかなか良いです。

9)自分の脂で火を入れられた山形牛に赤ワインのイチジクソルベのソースに菜花を添えて
イチジクソルベがソースとして機能していて、ほのかな甘味とイチジクの酸味が肉の脂の香りを抑えるのでまろやかになります。

10)ウサギの内臓詰めボルケッタとパクチー
ウサギに鶏などの内臓とパクチーを詰めて焼き上げたものでした。
野菜のパクチーと肉のバランスが良い美味しいボルケッタです。

11)フリーズしたサクランホとモッツァレラチーズ
モッツァレラチーズそのものの味わいです。暖かいモッツァレラとソルベのモッツァレラの組み合わせが楽しませてくれます。

12)キャラメルのムースとチアシードをしたに入れたココナッツソースにチョコレートのソルベ
甘いデザートです。ココナッツソースとキャラメルのムースが合います。

奥田シェフにもお会いできました。何度かテーブルに顔を出してくださりました。2年後が20周年です。それまで伺うことができれば良いなと思います。

メモ
価格:10,634円
熱量:約1,561kcal

食べ歩き(131) 秋田てんぷらみかわ 秋田市 天ぷら

秋田てんぷらみかわに伺いました。数週間前に門前仲町のみかわ是山居の五月女さんにお会いし、秋田にも伺いますというお話をしていました。たくさんのお弟子さんの中で、「みかわ」の暖簾を分けたのは、秋田てんぷらみかわの北嶋大地さんだけです。
先日伺った五月女さんの天ぷらを、まだ覚えている間に秋田に伺えたので、両店の同じ部分と違う部分を楽しめると思っていました。

店に入ると、一人先客が居られました。夕方は早めの時間から店を開けられているようです。店は開放感があります。シンプルでL字型のカウンター9席と、小上がり席が反対側に8席あるそうです。一番奥の席に通されました。是山居は入って一番奥が一番良い席ですが、秋田のみかわは、両端が同様な席づくりをしていますので、両端共に親方の動きが見える楽し席になります。今日も、炭酸水で開始です。

天ぷらは食べる人のスピードと揚げてのスピードが合わないと手もちぶたさを感じます。何故なら、天ぷらは、揚げたてを食すの一番美味しいのです。揚げる方は最も良い状態で天ぷらを油から出します。油から出た天ぷらの具材は、その熱により中でまだ蒸され続けています。時間を置いてしまうと、過度な蒸しになるので意図したものではなくなります。天ぷらを眺める時間が無いために、すぐに食べ終わります。すると、何となく間が空くのです。NHKのプロフェッショナルで特集された、みかわ是山居の五月女さんと、数寄屋橋次郎の次郎さんの相互の店でのお互いの店の食仕方を映していました。次郎さんは、みかわで五月女さんの天ぷらをいただく際には、五月女さんの動きを見て、箸を持って天ぷらが揚がるのを待ちます。置かれた瞬間に火傷しないように口に運んでいました。

親方の流れに客が合わせることもあります。今日は、小上がりには大勢お客さんがありますが、カウンターはこの時間は2人でしたので、こちらのペースに親方が合わせて下さりました。この後に述べる内容を1時間45分で平らげていますので、相当早いと思われます。

<先付>
シドケのおひたし
秋田の山菜のお浸しで、シンプルで美味しいです。

ヒラメ刺身
これは良い鮃でした。脂の乗りも良く美味しい鮃です。秋田産であったかどうかを失念しました。

ここで親方から、「天ぷらを始めます。」という声がかかり、ことらも臨戦態勢です。
最初は、車エビからかなと思っていたのですが、山菜から始まりました。
<てんぷら>
1山菜

2タラの芽
大好きな山菜であるタラの芽の天ぷらです。口に入れると、タラの芽独特の香りが立ちあがる、美味しい天ぷらです。油と苦みのコラボは美味しさ倍増の組み合わせです。

3車エビ

4しっかり揚げた車エビ
前医の海老とのコントラストが良く、両方楽しめます。
同じ素材を揚げ時間である、具材を蒸しながら脱水させる作業時間で、こんなに違うということが理解できて大変面白いです。

5車エビの頭

6江戸前のキス

7ウニ
大変おいしい揚げ具合でした。

8墨烏賊
イカは難しいです。ほんの少し火が入りすぎると真ん中まで揚がってしまいます。少しレアな部分を残すとそのバランスが最高です。これは少しだけ揚げが強かったのではないかと感じます。

9白魚
対馬産の白魚です。この時期の最上級の白魚です。少しだけ揚げが強かったのではないかなと感じました。数秒でしょうか?

10鮑 (肝醤油で)

おつまみ  墨烏賊山葵醤油

11鹿児島の空豆
鹿児島産の空豆です。空豆が最も栽培されているのが鹿児島です。鹿児島は春ですね。空豆が鹿児島の店に並ぶと、夏が近いイメージです。計り売りされていたり、煮たものをスーパーで売っていたりと、鹿児島は空豆が大好きです。私も大好きな食材の一つです。先日知ったのですが、この豆の外側の厚手の皮も食べられるのだそうです。まだ、食べたことが無いので、今年はやってみようと思います。

12秋田産アスパラガス
アスパラガスの天ぷらも美味しかったです。上と下の部分の味が異なるのが面白いです。両方ともによく揚がっていて美味しかったです。

13鹿児島の筍
この筍も鹿児島産のハシリ物だそうです。土を掘って採った筍は、シャキリ感もありバランスが良い天ぷらです。

14秋田産行者ニンニク

15江戸前メゴチ
少し小さめの江戸前メゴチですが、揚げは良かったです。

16ホタテ

17ウド

18対馬産穴子
みかわの定番、穴子は美味しく揚がっていました。塩と天つゆでいただきました。二度楽しめる穴子をありがとうございました。

<食事>
エビのかき揚げ天丼

天茶漬け
もう少し入るので、追加オーダーです。
「親方が、同じかき揚げにしますか?」「それか、別で?」と問われたので、「できれば、別のものでかき揚げにしていただければ。」とお願いしました。
野菜&山菜かき揚げの天ぷらお茶漬けは、美味です。だしもよくて、天茶はお勧めです。もし、一方しか入らない時には、今後は天茶にします。
写真が無い!!忘れました。

<甘味>
スダチのシャーベット

以上、ノンストップ天ぷらで、大満足の秋田みかわでした。

北嶋さんは、つい最近まで悩んでいたそうです。それは、江戸前が心情の「みかわ」です。五月女さんも江戸前にこだわられています。その、「みかわ」の暖簾を掲げる「秋田 みかわ」ですので、やはり江戸前を目指すべきという考え。これに対して、秋田に戻り地元にも良い食材がたくさんあります。実は、秋田県の食材の豊富なのには驚きます。河豚も採れますし、鯛、黒鯛、キスなどは有名です。野菜も山菜も豊富です。この食材を活かして秋田前をやりたいという考え。江戸前を捨てるわけにはいかないが、地元の食材も捨てがたいと悩みに悩み、先日五月女さんに相談されたそうです。江戸前の哲学で秋田前を模索しなさいと言うような内容の回答であったそうです。これは、門前仲町とは異なるみかわに化ける可能性があります。北嶋親方の「江戸・秋田前」の成長が楽しみです。

先週から今週は、ツアーで美味しいものをいただいています。先週の札幌フレンチの五十嵐から始まり、秋田の日本料理たかむらに始まり、今日の能代の十八番のラーメンの代わりに柳麺多むらのラーメンが参入し、その後に秋田てんぷらみかわ、明日は鶴岡イタリアンのアルケッチャーノに伺い、その翌日には新富町の中華FURUTAで〆です。各領域の美味しさの比較検討を目的にして、各領域のTOPクラスの店でつなげることができる範囲で組んでみました。最後に考察できると良いです。

メモ
価格:19,440円
熱量:1,777kcal

2018年3月28日水曜日

食べ歩き(130) 柳麺多むら 能代市

柳麺多むらの田村壮司さんは、ミシュラン一つ星獲得した東京のラーメン店「鳴龍」の立ち上げ時に、スタッフとして齋藤店主を助けたかたで、故郷の能代に戻り、2015年4月23日に開店させたのが、「柳麺 多むら」だそうです。

にわかに調べた結果が上記のようでした。
実は、本日の目的は、能代市で昔からある老舗ラーメン店であり、昨年28年ぶりに伺った十八番へ、再訪しようと思っていました。ところがです。本日休店でした。

そこで、スマホで食べログから情報を得たところ、何と、十八番よりも点数の高い店があります。そもそも、ラーメンは嫌いではありませんが、余り積極的にいただかないので、全く知りませんでした。最近だしも研究対象に加えた私にとって、ラーメンスープは検討の対象になるということで、十八番のスープは耽溺性があるよな?との思いで再訪しようと考えたのでした。

柳麺多むらの情報を確認すると、冒頭に記載した内容の情報がありました。これも何かの縁ですので、本日開店中を確認して急ぎ店に向かいます。

店に入ると、席は満席で2名が待たれています。直ぐに数名が立ち上がられたので、これで席に着けそうです。メニューを見ると、いくつかの種類のラーメンがあります。ここは、ラーメン自体を良く知らないので周りの方の注文を確認してみてもよく分かりません。そこで、お店の方に、「イチオシは何ですか?」「もちろんどれも美味しいのでしょうが、最初に食べてみたほうが良いと思われているのはどれですか?」と尋ねてみました。すると、即答で「醤油」というので、それを一つ、硬麺でお願いしました。

醤油のスープストックの作り方情報は、お店にありました(以下の写真です)。
動物、野菜、魚を用いたスープストックのようです。
実際に届いたラーメンのスープは、謳い文句通りだと思われますが、脂を感じるスープでした。しっかりしていて、濃いめで、脂を感じるスープです。叉焼と煮豚は普通の出来でしょうか。私にはとっては、これがそんなに高い評価なんだ?と感じた一品でした。もちろん、美味しのですが、美味しいだけのような感じがして、何か足りないように思えた次第です。


メモ
価格:750円
熱量:約749kcal

食べ歩き(129) 日本料理 たかむら 秋田市

日本料理 たかむらさんへ伺いました。

江戸料理を提供される数少ない方で、東京目白の「太古八」で修行し、24 歳で板長をつとめ、28歳で独立されています。2016年に、農林水産省の「料理マスターズ」に、秋田県で初めて選ばれまています。高村さんのことについて、その信条を含めてわかりやすい記事が、本田 直之さんの記事として掲載されています(この記事がすべて正しいとは言えないようですが参考資料になる)。秋田で江戸料理という「日本料理たかむら」に至った経緯を含めて参考になります。

江戸料理という概念はなかなか幅広いですが、その神髄が何なのかについての考察は幾重かあるようです。シンプルが信条という考え方。鰹節でだしを引き濃口醤油で味付ける。
江戸料理といえば、以下のものがあげられる。

  • 江戸蕎麦
  • 天ぷら
  • 江戸前寿司
  • 海苔巻き
  • 刺身
  • 鰻蒲焼 
  • 穴子料理
  • どぜう
  • すき焼き
  • 田楽
  • 味噌田楽
  • おでん
  • 桜鍋
  • 葱鮪鍋

江戸料理百選では以下の料理がその一部として掲載されています。
  • はんぺん豆腐
  • 豆腐の木の芽田楽
  • 玲瓏豆腐(こおりとうふ)
  • 雪消飯(ゆきげめし)
  • 鯛飯
  • 渦巻き豆腐
  • 霙蕎麦 (みぞれそば)
  • 酢烹(すしに)
  • 林巻大風呂吹大根(りんまきおおふろふきだいこん)

江戸の料理は寿司、鰻、天ぷら、蕎麦などのファーストフードとして庶務の間で発達する一方で、武士の世界でもこれらは発達していきます。蕎麦では、武家向けに更科という文化が芽生えます。一方、庶民の間では二八そばが流行ります。つなぎに小麦粉が入るので、切れない・多少の保存ができる(長持する)、加えて、喉越しが良いと訴えられるという作る側の営業戦略から生まれたと思われ蕎麦が発達します。寿司では、江戸城内に寿司が存在する一方で、江戸市中では屋台での寿司が主流となります。同じ料理が少しづつ形を変えながら、それぞれの文化の中で発達するのが面白いところです。

高村さんも大変お忙しいようです。先日連絡した際に、定休日以外に火曜日と水曜日もお休みの日があるということでした。理由は、JR東日本の仕事によるということです。JR東日本では、「TRAIN SUITE 四季島」の寝台列車の旅を提案し、その中で東北、北海道の著名なシェフによる料理を提供しています。列車による長旅に美味しい食事を提供する旅の企画です。高村さんも、監修中村 勝宏、総料理長岩崎 均のもとに集結したシェフのお一人であり、春の時期は火曜・水曜と四季島に出向かれているので忙しいそうです。「秋田駅前のホテルの厨房で料理して、最高の駅弁を作っている。」そうです。元々贅沢な旅ですが、その締めくくりの料理が日本料理たかむらの特性弁当であれば、その金額も納得でしょうね。

店に着いた時には、まだ何方も居られず、またもや一番乗りです。ご挨拶して、色々とお話しさせていただきました。たかむらの料理について、先週末に仙台で開催された、「たかむらとKUROMORI」の初のコラボのこと、器のことなどなど・・。

先週末の仙台KUROMORIで開催されたお二人のコラボは発売2分で完売し、開催前日のキャンセル待ちが100名を越えているということで、食通の方には、垂涎のプラチナチケットだそうです。来客には、著名な方も含めて大勢の方であったそうです。

「もう二度とやらない。」「コラボは今回が初めてで、最後かな。」と言われていましたが、その後に、「少し落ち着かれて、今回のイベントが、どんな相乗効果をもたらしたかを検討され、それも面白いということになれば、次回もあるかも。」「でも、今は疲れた。」とお話されていました。また、「黒森さんには相当影響を与えられたかな。」というお話もあり、「彼は、日本料理の神髄を見たと思うので、これからの成長が急速度で変わるかも?」等々、その面白さを既に、ご自身の中で噛みしめている様子なので、再結成や、他の方とのコラボもあるかもしれません???

そんな話をしていると、いよいよ高村さんの料理が始まります。
お酒はダメですので、今日も炭酸水でスタートです。

【先付】

  • 秋田産真蛸
  • 子持ち昆布
  • もろきゅう
  • ホタルイカ
  • あさりと春菊の胡麻寄せ
  • 卵焼

真蛸は、丁寧な仕事の賜物でした。美味しく仕上がっています。丁度良い硬さで、かつ、塩味です。丁度良いだけ丁寧に揉みほぐした蛸です。素材への真摯な取り組みがわかる一品です。高村さん曰く、「蛸はそのまま揉みます。すると繊維が切れて柔らかくなるのと同時に、塩が出てきます。このバランスを取るのがなかなか難しい。」ひたすら蛸を揉む作業は、持久力を求められる作業ですから大変です。
玉子焼きは大好きな品なのですが、間違いなく美味しい玉子焼きですした。もっと、大きいと、もっと、うれしいですね。

秋田産鮟肝(別盛)
絶品の鮟肝です。これまでの鮟肝とは別次元の一品です。まろやかで、肝の持つ脂質やたんぱく質の癖はありません、全く無いのです。口の中では、ホォーと溶けます。今までの鮟肝は何だったのだろうと思わせる別格の鮟肝です。
頂いた後に、しばらく、この味の素は何なのだろうと考えてしまいました。これをいただけただけで、伺った甲斐が有ったと言えそうです。もちろん、鮟鱇の肝とお酒とがなす技であることは間違いありません。
「凄い鮟肝ですが、下処理から違うのでしょうね?」と高村さんに伺ねてみました。すると、「これが、本来の鮟肝です。」「下処理から全く違います。」「血抜きの手法から、他ではやっていない処理をして、臭みは一切除去します。」とのこと。その後、「実際にこんな処理をして、あんな処理をして。」と丁寧に教えていただきました。どれだけ手間をかけているのだろうと感心します。このお話だけでも、上級と言われるお店の領域を、はるかに越えているのではないかと感じました。ここでは、その処理方法や作り方の詳細は企業秘密も含むのかもしれないので割愛します。是非、伺った際に尋ねてみて下さい。

【蕨擂りのご飯】

ワラビは下処理が大変な食材です。
ワラビを丁寧に擂って、それをご飯にかけて、いただきます。私が、ワラビの味として記憶してきたものとは異なります。ワラビ独特のエグミを伴う香りがありません。多分、他の方も同じ感覚になるのではないかなと思います。これも鮟肝同様に下処理が違うのだと思われます。

【椀物】

使用されている緑色のお椀は 400年物の輪島塗です。 京都料亭の物を競り落としたそうです。今後、こんな代物を探すのは大変かもしれないというお椀です。
鼈と比内地鶏をワンタンに詰めてウルイを加え、秋トリフを乗せた上を大根で覆い、鼈のスープ、比内地鶏スープと鰹だしでの3種のだし(スープ2種と鰹だし)で炊いたものです。うま味が凄いです。

椀を開けると、だしを中心に具材のほのかは香りがします。だしを少しいただき、大根をよけるとトリフの香りが。そして、ワンタンの中からは鼈と比内地鶏の両方が一緒になって主張します。そして、だしがこれらをまとめてくれます。バランスが抜群です。

椀のたねが活きる吸い物です。この吸い物は、京都料理のお吸い物のコンセプトとは全く違うという高村さんの言われる通りの内容です。
高村さん曰く、「江戸料理は素材を主張させる料理です。京料理はだしが前面に出てきて主張する。その後ろに具材が現われます。たかむらの料理は、具材を主張させます。その為にだしを上手に用いてバランスを取ります。」

全くその通りの内容でありました。
ここで、江戸料理を、敢えて「たかむら料理」と記載したのは、本当の江戸料理を継承しているのは、このたかむら以外に無いのではと考えるからです。
この思考とフィロソフィは、江戸料理そのものであり、日本で(イコール世界で)江戸料理を唯一提供できる店であるたかむら料理の神髄なのかもしれません。


【刺身】


  • 秋田沖のアイナメ
  • マス
  • 閖上の赤貝
  • 閖上赤貝のヒモと肝(別盛)

全て洗練された刺身ですが、赤貝の生の肝は滅多にいただけません。この時期だから頂ける赤貝の肝を賞味できて、ありがとうございました。

【焼き物】

比内地鶏の首の皮にミンチを詰め焼き ホウズキと苔桃を添えて
比内地鶏の1羽から2人前しか作れない品だそうです。
首の皮の弾力をすべて消さない程度の焼き具合で、皮の弾力を消してパリッと感を出した中に、ジューシーな比内地鶏がたっぷり詰められています。このジューシーな鶏のスープを含むミンチ肉と首の皮がバランスよく口の中に広がります。これも、初めていただいた品で、感激ものです。

【煮物】

鶉の利休盛りに鰹だし餡かけ
鰹だしのあんかけが凄いです。鰹の雄節の一番だしによる餡です。このだしがたかむら料理の土台になっているものだと思います。非常に良いだしです。出しゃばらずに煮物の素材を引き立てるのですが、このだしがあって素材がより美味しく感じられるのだと思います。
だしの勉強も始めた私にとって、大変興味深いだしのうま味でした。
高村さんによると、「たかむらでは鰹だしが根底にありますが、昆布も使うし、その他のだし(スープも含む)も使います。」「何か、間違って伝わってる時もあるようで、たかむらは昆布を使わないというように訊ねられる事が有ります。」というお話もありました。それはそうです、昆布を使わないということは無いだろうなと思っていたので。
「多分、京料理と江戸料理の違いの話をしたときに、鰹だししか使わないというような誤解を生んだのかもしれませんね?」とのことでした。
うま味という視点で考えると、鰹、昆布、キノコ類、その他の魚、野菜、肉の成分は異なりますし、それぞれが持つアミノ酸と核酸の組み合わせがうま味を形成します。うま味だけではなく、こくにも関与しますし、香りによる影響も多大です。これらをいかに組み合わせたかという帰結が、「うまい」に大きな影響を与えるので、鰹だけということはあり得ませんね。

【八寸】


  • クラゲとキュウリの和え物にアメーラトマトと黒皮南瓜
  • 虎河豚白子焼き
  • 蕪餅をカラスミで

蕪餅は優しい一品です。道端に 落ちていた美味しさという感じです。気にしないと行き過ぎてしまいそうに、そっと他の2品の端に出されていたのですが、ふと、立ち止まらせる美味しさがありました。中国料理の点心の一種に大根餅がありますが、これも美味しい点心です。蕪餅は大根餅とは異なります。甘みと香りが優しいものです。山形の腰掛庵の葛餅のような、そんな優しさがあります。これに、自家製のカラスミを擦ってかけています。一口サイズなのですが、勿体なくて、二つに箸で切っていただきました。
高村さん曰く、「なぜ、これが生まれたかというと、普段、料理人は蕪を炊けるようになるとそこがゴールになってしまいます。」「でも、一寸待てよ、この蕪の形のままいただく必要があるのか?と思い、潰してみました。」「すると、これがなかなか良い味で、これをまとめて何かを加えてと、開発に至った。」ということでした。
この話と、たかむら麺の開発は繋がるお話でした。「何かもっと善くならないか?」「こんなものが欲しい。」という要求などが動機となり、非常にクリエーティブに開発に携わって来られたのがよく分かるお話でした。
動機(モチベーション)というのは、人が生きていくうえで非常に重要な要素です。動機分析という学問領域があります。私自身は、本来、動機を操作する方法論が専門です。私自身の動機分析結果は、「変革」というキーワードですので、今より善くという思考が、生きていく上で最も重要な要素です。よって、これまでの60年の人生で私が最も楽しい時は、変革プロジェクトや人のパフォーマンスを変えるための施策や方法論の検討に携わっていることでした。この動機というのは、各人が持つものですが、それぞれ異なる動機を持ちます。高村さんは、動機としてホスピタリティに変容を合わせ持つ方なのかもしれないなと感じました。話しが、飛んで・・・飛んで・・・でした。

【揚げ物】

甘鯛松笠揚げ 山葵塩で
オーソドックスな料理ですが、本当に美味しいです。出された瞬間は、「えっ!! 揚物は、甘鯛松笠揚げですか?もう少し、他のものを期待していたのに?!」と、正直に思いました。その表情を見られていたら、そんな顔をしていたであろうなと反省しています。しかし、たかむら料理の甘鯛松笠揚げは、ただ揚げているだけではない一品です。松笠揚げの特徴は、うろこのカリカリ感と身の柔らかさのコントラストを一緒に味わいます。たかむら料理の甘鯛松笠揚げは、これに何らかのうま味が加わっていて、より美味しい料理になっています。何らかが何かは分かりません。下処理時に何かしているか、下味を加えているかのどちらかではないかと思いますが、分かりませんでした。機会があれば、もう一度いただいてみたいです。

【食事】

たかむら麺の担担麺
是非、一度お試しあれです。
そばの研究にだしや旨味の研究を始めた私にとって、興味深いたかむら麺です。秋田県内では市販されているそうですが、店で品切れの時もあるそうなので、分けていただきました。自身で、試してみようと思います。

【甘味】

玲瓏豆腐(こおりどうふ)
黒蜜は太古八からのものだそうです。懐かしい玲瓏豆腐です。

たかむら料理は、打ち水された入り口から、店を出るまで大変高度なホスビタリティー、技、業とそれらの土台になる、たかむらフィロソフィーによるものなんだと思わせるものでした。
月に一度、ここに通える事が出来ると、どんなに良いのだろうと思いました。それは難しいですが、機会を見つけてまた伺いたいと思います。

メモ
価格:13,420円
熱量:約1,200kcal