店名から、日本料理店であるとは思われますが“e.”が気になります。
何故知ったのかと言うと、このブログで紹介した、「仙台市役所青葉区茶室 緑水庵」に行った際に、その出口の斜め向かいにあるビル1階の真っ白な壁に「日本料理e.」という看板と白い扉、そして中を窺える小窓のあるお店を見つけたのです。たぶん日本料理店とは思えます。しかし、「e.」は何者だという記憶に残るお店でした。この日は、緑水庵という昔からの茶室が仙台市役所の一部であることに驚き、そして、この看板と店構えに疑念をいだいたのでした。
そのような訳で、日本料理e.に連絡し予約を入れて伺うことになったという次第です
今日は、いよいよ“e.”の意味がわかるのです。
店に入ると親方(シェフ)が笑顔で迎えて下さいました。私が一番乗りです。挨拶をすると、親方の前の席に案内していただきました。大変笑顔が素敵な方で、物腰がたいへん柔らかで、お話も急がずゆっくりです。なかなか良い雰囲気を持たれている方です。お年は若いです。出身は仙台だそうです。
東京に出て和食店数軒で修業をされたそうです。一番長かったのは、広尾の「分とく山」(野崎洋光シェフ)のところだったそうです。分とく山が新宿伊勢丹店をオープンする少し前からだそうで、ご自身はこの伊勢丹店で修業されたそうです。分とく山は、広尾から南麻布に移られたと思います。野崎シェフは、テレビでも活躍されている方で著名な和食料理人です。
その後、仙台に戻り、フレンチのnacreeで2年ほど修行をして和食との違いを確認したそうです。食材の扱いの基本が全く異なることを経験したのが大変良かったとおっしゃていました。肉の扱いなどは全く異なるそうです。フレンチの食材の扱いと、和食の扱いとをコラボできるような店を開いたそうです。静かなお話の中にしっかりしたコンセプトを感じます。美味しさを追求しているのがよく分かるお話でした。
千葉さんを親方と呼べば良いのか?シェフと呼べばよいのか?迷うところです。日本料理の千葉シェフという呼称にしようと、私の中で勝手に決めました。
このあたりまで話が進み、いよいよ"e."について尋ねてみました。
やはり、「これまでも多くの方から質問されました。」とおっしゃっていました。誰でも気になりますよネ。
「日本料理e.」は誕生3年だそうで、千葉シェフの息子さんも同年齢だそうです。彼の名からとったのだそうです。その際に、日本食に加えていく洋のイメージを出すために、アルファベットを使用したとのことでした。息子さんをいつも思いながら働かれている日本料理e.の千葉シェフです。
和食といっても、色々な和食があります。本膳料理、会席料理、懐石料理、精進料理。別の切り口では京料理、江戸料理、郷土料理。またジャンルを特定した鰻料理、天ぷら料理や鮨など。
現在、本膳料理や本当の意味での懐石料理は、ほとんど見られなくなりました。懐石料理は、茶懐石料理と名を変えて少しだけ残っています。現在の和食を標榜しているお店は
殆どが会席料理になると思われます。現在の会席料理と言われるものは、元々酒を供するための料理を目的としてはじまり、その後の発展の過程で本膳料理や懐石料理を呑み込んで発展してきています。そして、現在は、会席と懐石の区別を知らない日本人が殆どで、その区別が無くなっています。
和食の歴史は古いのですが、和食の目的別に分けられた懐石・会席・精進料理という厳格な区別は、現在では受け入れずそれらを融合して「美味しいを追求する文化」へと発展しているのが和食の現状です。現在の和食の主流は「美味しいを追求することを軸にした文化」です。ミシュラン、食べログ、食通や有名人の評価などは、味、美、環境などの尺度で評価します。そしてそれらに迎合する形で一般市民が大移動するするのです。美味しいを追求するという食文化の視点から考えると、日本料理e.が考える、日本料理とフレンチを組み合わせていこうとする試みは、自然な発想であり今後はどんどん発展していくのではないかと思います。
フレンチやイタリアンで肉を扱う際に、低温調理、熟成管理、冷却技術やレーザ光利用などの科学に基づく新たな管理・調理方法が開発されてきてます。これを日本食が取り入れないのは勿体ないわけで、どんどん取り入れていこうという考えが有ってよいと思います。
一方で、日本料理は伝統的な調理方法でなければいけないという考えもあります。しかし、そう言っている日本料理の歴史自体は、前述のように過去からそのような画一的に発展をしてきてはいません。唯一、踏襲しているのは茶懐石と禅寺での精進料理だけではないでしょうか。これらの二つのジャンルは、ある限られた方のみが対象で、多くの日本人はそれらを試すことも少ないのです。しかし、個人的には、この領域はしっかりと後世に残してほしい文化だと思います。茶懐石料理(懐石料理)と精進料理は伝統的な手法と文化を継承して発達して欲しいと思います。料理の目的が明確で芯の通ったこの二つの文化はそのまま残るのが良いですし、私自身はこれも大好きです。
そして、もう一方の私は、より美味しい料理を提供されると嬉しいのです。その時は、ジャンルなど関係ないのです。日本食にイタリアンが加わっても、フレンチに広東料理が加わっても、美味しいのであればそれはゆるされます。クリエーティブな発想と思考はむしろ喜ばしいのです。
歴史や伝統に基づく、ある意味重厚な料理も残してほしいし食べたいです。一方、クリエーティビティーな料理も食べてみたいという我儘な私の願いです。多くの方が同じような考えなのではないかな??と思うのですが?
文化を踏襲しながら、新たな知を融合していくという手法は、日本人にとって最も得意な分野です。日本と言う国は、歴史を紐解けば聖徳太子が「八百万の神」を作り、宗教を宗派を越えて何でも受け入れられという日本人の精神構造を構築してから、本格的な宗教戦争が無い珍しい国です。その何でも取り込み、融合し、新たなものを作り出すという気質は、明治維新や、直近の高度成長期では国の発展に大きく寄与しています。
話しを戻します。日本料理e.が今後どう発展していくのかが楽しみです。止まらずにどんどん進んで行って欲しいものです。
日本料理e.の室内環境は、洋風仕立ての白壁とむくの木で構成されています。静かで素敵な環境です。これも、千葉シェフが目指そうとする料理を演出しているのだと思います。
さて、料理です。
先付け :マキエビと ホタテとうるいに こごみの辛子餡かけ
優しい味で、千葉シェフを印象付ける料理でした。何も出しゃばらない美味しい餡かけです。
お凌ぎ:牡蠣と里芋のみぞれ合えの柚椀
柚子の器なので、その香りがうれしい料理です。牡蠣と芋が良く合います。それに、大根みぞれが絡んで優しい味に仕上げています。最期に残るジュースを飲みたかったのですが、隣にスプーンを用いして下さっていたのに、その存在に気づきませんでした。失敗ですね。
八寸:
- フォアグラの茶碗蒸にセリ餡かけ
- 春菊の呉汁和え
- さつまいものキントン
- カニときゅうりの錦糸卵巻き
- 八幡巻
- 鰯と大根の酢の炊き合わせ
- チーズ入り蕗の薹の天ぷら
- マキエビ頭の天ぷら
一つひとつが丁寧に造られています。食材の美味しさを引き出して下さっています。春菊の呉汁和えは、呉汁のインパクトが少し弱く春菊もおとなしい感じがしました。お互いに主張が強いのでどちらも弱まってしまったように感じます。強い者同士をどちらも強く感じさせてくれるともっと嬉しいと感じました。チーズ入り蕗の薹の天ぷらはそのチャレンジが活きていました。青カビを使っても面白いと感じました。
吸物 :アイナメとうぐいす菜(京野菜の蕪菜)に大根のお吸い物
お吸い物は、一番楽しみにしていました。お店の出汁を知るのに最も良い料理ですし、この味がその店の基本的な味になるので。
昆布と鰹の出汁でした。基本はこの組み合わせだそうで、昆布をしっかり効かせて鰹は少し弱めの香りにしています。美味しい出汁です。最近、鮪節を用いるお店の有ることを尋ねると、普段は使わないのですが、おせちには鮪節を使うそうです。鮪節の方が痛みが遅いので、おせちにはこちらの方が良いそうです。
お造り :
- 平目
- えんがわ
- ぶり
- ウニ
- ふく白子のふく巻
焼物 :さわらとアサツキの田楽焼き
鰆は、春を呼ぶ魚と言われますが、実はこの冬の時期が一番美味しいと言われています。美味しい鰆でした。また、あさつきがアクセントになっていて田楽を絡めると美味しさ倍増です。
季節の皿 (鉢肴):きんきと零余子(むかご)の蕪蒸し、かわいい器と共に
キンキも美味しいですが、蕪にまみれたむかごも美味しいです。むかごがユリ根の代わりになるのだということを学びました。これは使える。
強肴:仙台牛の和風ローストビーフ
仙台牛のイチボのローストビーフですが、火の入り方が絶妙でした。低温調理による料理ですが、美味しく仕上がってます。香りも良いし、味は牛の旨味が出ていますし、当然柔らかいお肉です。
お客さんによっては、ピンクの肉ではだめで、しっかり焼いてほしいという要望もあるそうです。赤い肉(生肉)は怖いという発想です。勿体ないですね。旨味が全く別物になってしまいます。しかし、それも好みでしょうか???
御食事
- 鯛と里芋にカラスミのたき込みご飯
- 味噌汁:豆腐となめこ
- 香者:人参、山芋、菜
甘味
- 水菓子:イチゴ、キウイ、オレンジ
- デザ―ト:黄粉のアイスクリーム
最期に、先ほどの土鍋の炊き込みご飯んで余りをおにぎりにして下さりました。明日の朝食?です。これは、うれしいお土産でした。
(追記)
翌日に、このおにぎりをいただきました。「冷めても美味しいササニシキを使っているのです。」と言われていたように、美味しくいただきました。冷めると、カラスミの香りが弱くなるのを感じました。また、鯛が前に出てきて、存在感を増します。
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